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東博ボランティアデー完全レポート

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こんにちは。ボランティア室の神辺です。
今年も東博ボランティアデー(通称ボラデー)が12月1日(金)、2日(土)に開催され、盛況のうちに幕を閉じました。神辺は今年4月よりボランティア室に配属となり、初めてのボラデー運営でした。ボラデーについて事前に「ともかくボランティアさんたちの熱量が半端ない」というふんわり怖い情報を得ており、しかしその熱量への具体的な対策は思いつかないまま、ボランティア室最大のイベントかつボランティアの祭典であるボラデーの初日を少々緊張して迎えました。
今回はそんな初々しい目で見たボラデー2日間の様子をレポートいたします。

そのまえに「トーハクボランティアデーって何?」という方、1089ブログ11月21日(火)「ボランティアデーと平成30年度からのボランティア募集のお知らせ」を先にお読みくださいませ。

ちなみにトーハクボランティアによる自主企画グループは全部で16種類ありますが、今年のボラデーにはそのうち14種類のグループが参加しました。
それでは、平成29年度のボランティアデーレポート、時系列でどうぞ。

12月1日(金)―1日目 
9:30
前日夕方の天気予報で台東区の降水確率30%だったのに、朝からしっとりと小雨。しかも寒い。運慶展の熱狂、開館前の正門の長打の列は今はもう、影も形もありません。祭典のスタートとしては少々心細いですが、ボラデーの幕開けです。まずは庭園茶室ツアーの整理券配布からスタート! 
庭園茶室ツアーは18名限定の人気のツアー。30分ほどでめでたく整理券配布終了。
10:00
鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(1回目)開始。

トーハクボランティアの目的や具体的活動について詳しく説明するため、来年度トーハクボランティアに応募予定の方には必聴の内容です。
募集案内はこちら
10:20
ガイドツアートップバッターは考古展示室ガイドです。

ボランティアガイドツアーは「初めて来館された方にも楽しんでもらう」「作品以外のトーハクの魅力を知るきっかけづくり」が目的です。そのため、わかりやすい言葉づかいや話し方を心がけています。
10:30
考古展示ガイドが順調に進んでいることを見届けて、ボランティア活動紹介ツアーにかけつけます。案内人は現役のボランティア。トーハクボランティアの活動の中心であるお客様へのご案内と教育スペースでのお客様の対応を実際にご覧いただきます。

ツアー参加者はボランティア活動に興味深々の様子。楽しくおしゃべりしながらのツアーです。「トーハクボランティアに合格する秘訣は?」なんていうトンデモ質問も飛び出します。
11:00
朝イチで整理券を配布した庭園茶室ツアーが出発です。庭園にある5つの茶室をめぐります。

皆様、庭園の美しい紅葉と茶室の趣向を堪能されていました。
12:00
鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(2回目)開始。

室長の最初のひとこと「昼食ではなく説明会を選んだ皆様ようこそ」
12:00
たてもの散歩ツアーも正午スタート。本館、東洋館、表慶館など建物に着目するツアーです。

いつの間にか雨もやみ、前庭から本館の外観についてご案内。トーハクで一番大きな重要文化財、本館。「正面玄関の屋根には鳳凰の形をした鬼瓦があります」とのこと。
12:30
本日2回目のボランティア活動紹介ツアー。

ボランティアが手にしている旗は各ボランティアの手作りです。
12:50
天候を気にしながら樹木ツアースタート。館内の木々について紹介します。

トーハクのシンボルツリー、ユリノキはすっかり葉も落ちてしまいましたが、庭園には常用樹、落葉樹いろいろあり、鮮やかです。
ツアーは説明者だけでなく、お客様がはぐれないよう最後尾にもガイドのパネルを持ったボランティアがいます。樹木ツアーなのでパネルもかわいいもみじのかたち。
14:10
野外でのガイドのあとは本館ハイライトツアーです。本館2階「日本美術の流れ」を案内します。

本館7室は屏風と襖絵の展示室。円山応挙筆波涛図をご紹介。「応挙56歳、画家の魂の漲る力作です。どうぞ、この大きなうねりの波の中にご自身を置いて、部屋全体が波に満たされていることを想像してみてください。」ボランティアさんのトーク、しびれます。
美しく色づいたイチョウを横目に見つつ、今度は法隆寺宝物館へ。
15:00
法隆寺宝物館ガイドの始まりです。本日はガイドツアー以外にお客様はなく貸し切り状態。贅沢な時間です。

第6室に展示中の「商山四皓 文王呂尚図屏風」は大きな作品。ボランティアさん、身振り手振りを交えてダイナミックにご紹介。
15:50
再び本館。本日最後のガイドは彫刻ガイドです。

サポートのボランティアさんはガイドツアーに参加されないお客様への配慮も欠かしません。スペースを空け、通路も確保します。
16:00
彫刻ガイドをちょっと抜け出し、鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(3回目)へ。
トーハクの広報大使トーハクくんが見守っています。

これにて、初日終了。
  
12月2日(土)―2日目 
9:30
昨日とは打って変わって晴天の朝! 本日はガイドツアーが11種類! それに加えてお茶会もあります。週末ということで多くのお客様の来館を期待しつつ、まずはお茶会の整理券配布からスタートです。
学生さんから年配のご夫婦までいろんな方が整理券をもらいにいらっしゃって、あっという間に一席目満席。二席目も残り3席。
10:00
本日も始まりました、鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(通算4回目)。

朝から大勢の方が集まってくださいました。
10:20
浮世絵ガイドが始まりました。

酉の市や忠臣蔵など師走の風物詩がテーマで、馴染みがある地名もでてきて、皆さん「わかるわかる」とうなずいてらっしゃいます。
10:30
浮世絵ガイドから10分後、ボランティア活動紹介ツアーが出発です。案内人の皆さん、本日も張り切っています!

トーハクボランティアについて知りたければ、まず説明会を受け、紹介ツアーに参加する、というのがおススメコース。大半の方がそのコースを選択。
10:55
もうすぐ11時。11時は2つのガイドツアーとお茶会が同時スタートです。ガイド集合場所である本館エントランスはガイドの呼び込みとお目当てのガイドへ向かうお客様で活気があります。

そこへ広報大使ユリノキちゃんとトーハクくんも登場。現場はいっそう華やいだ雰囲気に。
11:00
樹木ツアー、英語ガイドそしてお茶会。
まずはお茶会の様子を見に、応挙館へ参りましょう。
さきほどの本館エントランスの喧噪とは打って変わって、応挙館は静寂のひととき。「東博流ですのでお作法は気にせずにどうぞ。」という案内役のボランティアさんの言葉にお客様の緊張が少し緩みます。

舞台裏では陰点の真っ最中。
そおっと襖をしめて、さて次は樹木ツアー。

昨日にひきつづき大勢参加されています。菩提樹の名前の由来や楠の香りなどパネルや木の見本を使っての紹介はわかりやすいです。毎日見ている庭園の木々なのに知らないことばかり(汗)
樹木ガイドの皆さんの博識に感心しつつさてお次は英語ガイドへ。本館2階へGO! 英語ガイドは本館2階の展示品からハイライトとなる作品を選び英語で説明します。

参加者はうなずいたり、笑ったりしながら興味深く作品を見ています。和やかな一体感があるツアーです。
11:30
続いては東洋館ガイドです。ボランティアデーのためのスペシャルツアー「世界遺産を巡る旅」を行っています。

目を見張る大盛況ぶり。ツアーサポートのボランティアさんがパネルを掲げて作品の場所を示してくれています。
11:55
東洋館から室長の募集説明会のため本館へ向かう途中、これから始まる刀剣ガイドのチラシを配布するボランティアさんに遭遇。

なんだかまるで舞台女優のよう。
優しい親子連れがチラシを受け取ってくれました♪ お待ちしておりま~す。
12:00
鈴木ボランティア室長によるボランティア募集説明会(通算5回目)開始。

博物館と来館者をボランティアがつなぐ♡ という説明、その通りだなぁとしみじみ納得。
12:10
トーハクボランティアの意義を再確認しつつ刀剣ガイドへ。

こちらも大盛況。参加人数が多いため2階5・6室から見るグループと1階13室から見るグループに分かれます。
スムーズなツアーを行うため、お客様を誘導したりトーク時間を計ったり、別グループの動きを確認したりとトークを行わないサポートのボランティアさんも活躍しています。
12:30
本日2回目のボランティア活動紹介ツアー。

ボランティア自身の経験を交えてお話します。ツアー参加者からの質問とそれに対する返答が時間いっぱい続きます。
13:00
近代の美術ガイドとお茶会二席目がスタート。
トーハクには明治以降の優れた美術品も所蔵しています。それでは近代の美術ガイドを聞きに本館の18室に参りましょう。

後ろのお客様も作品を見ることができるようにしゃがんでくださる前列のお客様。お客様の優しい対応にちょっと感動。
心温まりながらお茶会のため再び応挙館へ。
お茶会ではお点前終了後、応挙館にまつわるエピソードに関するある演出を行います。

隣の部屋の襖があいて、皆さま興味深げに何かをご覧になっています。どのような演出か気になる方、ぜひ次回のお茶会にご参加ください。
13:25
お茶会は続いておりますが、陶磁ガイドが始まるためいったん本館へ。

本館テラス脇のモトヤカフェからコーヒーのいい香りが漂ってきます。燃えるような紅葉を見ながら池のほとりでコーヒーブレイク…いかん、いかん誘惑を断ち切り、本館へ戻ります。
13:30
陶磁ガイド、本日はお着物のガイドさんもいます。
14:00
お次は大人気の本館ハイライトツアー。本日も大入りです。

9室能装束の展示室「能と歌舞伎」にて、能「三井寺」の能面について「人生経験を経た中年の女性を表す面で、若い女性の面よりも頬のふくらみがなく、髪がやや乱れ、憂いをふくみ・・・」とのこと。アラフォーの神辺、能面にがぜん親近感がわきました。
14:40
急ぎ1階11室の彫刻ガイドへ。

「阿弥陀如来は西の果ての極楽浄土から迎えにきてくれます」とのこと。トークをするボランティアさんの姿は見えませんが、わかりやすいトークが聞こえてきました。
15:10
彫刻ガイド終了後、法隆寺宝物館へ急ぎます。

こちらにも軽食の屋台。コーヒーの良い香りが鼻孔をくすぐります。
法隆寺宝物館第1室の灌頂幡について「現存する古代の灌頂幡はこの作品以外はすべて織物で作られています」とのこと。
16:00
鈴木ボランティア室長によるラストのボランティア募集説明会(通算6回目)が始まりました。

皆さん熱心に耳を傾けてくださっています。この回は若い女性の参加者が多いなあ。
同時に考古展示室ガイドもスタートです。これがボラデー最後のガイドツアーです。

通常とは違う夕刻のガイドにもかかわらず、大勢の方が集まってくださいました。未来の考古博士の姿もあります。土偶、銅鐸、埴輪、古墳…簡潔にテンポよい解説です。
考古展示室ガイドをもって2日にわたるボラデー全ての説明会、ツアーが終了しました。研究員のギャラリートークとは一味違った、初めて来館された方にも楽しんでもらう作品紹介や建物や樹木ガイドを通じて新しいトーハクの魅力をお伝えできたのではないかと思っております。またブログではお伝えしきれませんでしたが、トーハクボランティアの中心的であり日々の活動でもある「ご案内」「お客様対応」のボランティアさんも大活躍でした。
説明会、紹介ツアー、ガイドツアーに参加くださったお客様がボラデーを通じてトーハクボランティアのことを知っていただき、親しみを感じてくださったなら幸いです。
トーハクボランティアのみなさまお疲れ様でした。 


平成30年度ボランティア募集中
応募にはこちらの募集案内をお読みの上、郵送でご応募ください。
応募期間は12月11日(月)~1月11日(木)までです。

 


感謝っ・・・! 東博的感謝っ・・・! 「トーハク感謝DAY」!

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さて、クリスマスまであと10日となりました。今年のご予定はお決まりですか?

…そうですね。皆様のおっしゃりたいことはよくわかります。
クリスマスに予定を入れなきゃいけないと誰が決めたんだ、と。
チキンとケーキを買わなきゃいけない気になるのはなぜだ、と。
いやそもそもトーハクとクリスマスに何の関係があるのだ、と

…そうですね。トーハクとクリスマスにはあまり関係がございません。正直なところ、私自身、世の中のクリスマスムードを「お、やってるね!」と、一定の距離を置いて眺めておりました。 昨年までは。
ええ。今年のトーハクは一味違います。

今年のクリスマス、トーハクはタダ開館しています。

…「タダ開館」している…だけ?いえいえ、「タダ」と「開館」の間、よーく目を凝らしてご覧ください。今年のクリスマス、トーハクはタダで開館しています。

そうです!今年のクリスマス、トーハクは入館無料!正確に言うと、年内最後の開館となる12月23日から25日の3日間は入館無料!クリスマスムードに便乗しようなどというよこしまな気持ちは一切ありません。クリスマスはたまたま被っただけです!

というわけで、トーハクが年内最後の開館となるこの3日間、すべての来館者の皆様に感謝を込めてお贈りする「トーハク感謝DAY 2017」。入館無料となるほかにこの時期にぴったりのイベントなども行いますので、簡単にご紹介させていただきましょう。

トーハク感謝DAYチラシ


まずは、特別ライトアップ。本館と本館前庭を中心としたエリアに、普段とは違うライトアップを行います。館員一同の感謝の気持ちが思い余って光になったものですが、クリスマスのロマンティックな夜にもぴったりです。

特別ライトアップ
12月22日(金)~25日(月) 16:00~21:00
24日(日)、25日(月)は17時閉館(16:30最終入館)※閉館時間後も21:00まで上野公園内からお楽しみいただけます。



もう一つ。クリスマスライブも無料でお楽しみいただけます。館員一同の感謝の気持ちを音楽に託したものですが、さまにクリスマスシーズンぴったり。

出演は、ジュスカ・グランペール(ギター・高井博章さんとバイオリン・ひろせまことさんのアコースティックデュオ)、ウィリアム・プランクルさん(チェロ)。ゲストとして、シンガーソングライターのACOさんをお迎えします。

 ジュスカ・グランペール(ギター、ヴァイオリン)
ジュスカ・グランペール(ギター、ヴァイオリン)

ウィリアム・プランクル(チェロ)
ウィリアム・プランクル(チェロ)

ACO(シンガーソングライター)
ACO(シンガーソングライター)

約30分の無料コンサートを、本館エントランス、平成館ラウンジなど館内各所でお楽しみいただける贅沢な機会!ダイワハウス工業の協力により、12月23日(土)は法隆寺宝物館エントランスが燈火器によって幻想的な空間に変わります!実施時間・場所は日によって異なりますので、詳細はウェブサイトでご確認ください。


そのほかにも、三遊亭究斗師匠によるミュージカル落語(別途チケットが必要)など、この3日間でしか楽しめないイベントをご用意。

25日はトーハクくん、ユリノキちゃんも年内最後のごあいさつに登場予定です(10:30~、13:00~、14:30~ ※登場はいずれも本館エントランス、各30分程度)。
トーハクくんとユリノキちゃん
 

25日までご覧いただける特集「親指のマリアとキリシタン遺品」へもぜひお寄りください。

特集「親指のマリアとキリシタン遺品 」
 

おひとりでも、カップルでも、ご家族でも気軽にお楽しみいただけること間違いなしです。今年はこれまで来館の機会がなかった方も、今までトーハクにいらっしゃったことのない方も、3日間もあれば滑り込みセーフ!ぜひ皆様に、「今年のご来館ありがとうございます」という感謝の気持ちをお伝えできればと思います。

クリスマスイブイブ、クリスマスイブ、クリスマスの3日間、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがたり」

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こんにちは。研究員の横山です。
今日は、ずっと温めていた特集のご紹介です。

いつも、展示室でご覧いただいている作品たち。
ふだん、展示室に出ていないときは、どのような箱に入っているのでしょうか。どのように保管されているのでしょうか。気になりませんか?

特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがた ―付属品・次第とともに観る―」(平成館企画展示室、2018年1月28日(日)まで)は、作品の箱など付属品(一緒に伝わっているもの)までお見せします、という展示です。
ここでは日頃担当している陶磁器や、茶の湯関係の作品を中心に紹介しています。

この企画、実は博物館に入る前から関心のあったテーマでした。
茶道をされる方は目にすることがあるかもしれませんが、お茶の道具にはとにかく「大切に、大切に」扱われ守られ伝えられてきているものが多くあります。
たとえば、茶入にはいくつもの仕覆(しふく:茶入を包む袋)がともなって、まるで「着せ替え人形」のようなものもありますし、著名な茶人が「これは確かなものですよ」と記した箱は、それだけで価値のあるものとなります。
さらに、その箱を守るためにまた箱を新たにつくって、“マトリョーシカ”のような二重三重の箱になっていることもあります。

唐物肩衝 銘 松山
唐物肩衝 銘 松山 中国 南宋~元時代・13世紀 原田吉蔵氏寄贈
作品と付属品がずらり勢ぞろい。小さな茶入にこれだけのものが付属しています。

この茶湯道具における付属品(「次第(しだい)」ともいいます)の重要性は、先の特別展「茶の湯」にかかわっていくなかでも、あらためて実感することでした。
箱の蓋を保護するために覆う紙、小さな紙札、更紗など特別な裂であつらえられた包裂…。
その一つひとつが作品を大事に守り伝えてきた証であり、歴史を物語る大切なものばかり。
作品を展示台に並べる際も、展示を終えてもとに戻す際も、それらに触れると何ともいえない緊張に包まれました。

重要文化財 青磁輪花碗 銘 馬蝗絆
重要文化財 青磁輪花碗 銘 馬蝗絆 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 三井高大氏寄贈
茶の湯展にも登場した名碗。この展示では箱と伝来記も一緒に御覧いただきます。


作品それ自体が興味深いものばかりの博物館の所蔵品ですが、その周辺に付属するものを見ていくと、前の所有者の「顔」や「思い入れ」がうかがえることがしばしばあります。これは博物館研究員の役得ですね。
学生時代から近代数寄者やコレクターについて関心のあった私にとって、博物館入職以来、ワクワクすることの連続です。
ぜひ、こういう世界も展示で楽しんでいただけたらいいな、という思いもずっと抱いてきました。

彫唐津茶碗 銘 巌
彫唐津茶碗 銘 巌 唐津 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 広田松繁氏寄贈
この特集では、東京国立博物館の陶磁器や茶の湯関係のコレクションの中核をなす、広田不孤斎と松永耳庵の二人を取り上げました。


加えて、昨年から保存修復課に属し、「どのようにして作品を後世に伝えていくか」ということを、前にも増して考えるようになりました。
作品の修理にかかわることが主な仕事ですが、作品をいかに安全に収蔵していくか、作品周縁の環境づくりも大切なミッションです。
そうしたなかで、新しい保管箱を作るなどしていくと、私自身もまたある種、作品の付属品づくりにかかわり、ものの歴史に関与していくことになります。

銹絵十体和歌短冊皿「八十一歳乾山」銹絵 銘 乾山
銹絵十体和歌短冊皿「八十一歳乾山」銹絵銘 乾山 江戸時代・寛保3年(1743)
乾山の共箱をともなう作品。箱も大切に伝えていくため、10客の皿は新たに誂えた保管箱に収蔵しています。

…そんなこんなで、いろいろな思いが重なって、今回の特集につながりました。
展示室をご覧いただくと、いつもとは少し違う雰囲気をお楽しみいただけるのではないかと思います。
なお、展示室やこのブログでお伝えしきれなかったよもやま(?)話は、1月20日の月例講演会でお話しできたらなと思っています。
合わせて足をお運びいただければ、幸いです。

特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがたり ―付属品・次第とともに観る―」は、2018年1月28日(日)まで展示中です。

それではみなさま、どうぞよいお年を!

 

2017年もありがほー!

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2017年も今日で終わり。
今年もトーハクの1年を振り返ってみましょう!


今年も1月2日から開館したほ!



1月17日からは特別展「春日大社 千年の至宝」が開幕しました。   



国宝の甲冑が4領そろい踏みして、盛り上がったほー!



3月には京都国立博物館で開催された「京キャラ博」にお呼ばれしました。

 

トラりんのダンス、かっこよかったほ!



春には「博物館でお花見を」がありました。   
4月11日から開幕した特別展「茶の湯」にあわせて、庭園の茶室「転合庵」の内部を特別に公開したのよね。


6月は尾形光琳(おがたこうりん)さんの「風神雷神図屏風」を展示したほ。   
この時からアイデアをあたためていたほ…。
 

その話はもう少し先よ!   
7月4日からは日タイ修好130周年記念特別展「タイ ~仏の国の輝き~」が始まりました。   
大きな扉が印象的だったわね。

本館では親と子のギャラリー「びょうぶとあそぶ」もあったほ。   
ぼくも体験レポートをしたほ!
 

9月5日からは「博物館でアジアの旅」が東洋館ではじまりました。   
テーマは「マジカル・アジア」。ちょっと怖い作品もあったわね...。
 

9月12日からは表慶館で「フランス人間国宝展」が開幕したほ!   
いつもの表慶館とはちがった感じでとっても楽しかったほー。


そんな中、9月22日・23日に今年も「博物館で野外シネマ」を開催。   
沖浦啓之監督のアニメーション「ももへの手紙」を上映しました。
 

9月26日からは興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」がはじまったほ!



たくさんのお客さんに来ていただき、ご来場が60万人を超えました。
まさに、史上最大の運慶展だったわね!   



11月には「世界キャラクターさみっとin羽生」に出場するため、埼玉県羽生市にいったほー。



この時の仮装イベント「はにゅコレ」で、トラりんといっしょに「風神雷神図屏風」の雷神になったのよね。

 

「ゆるキャラ(R)グランプリ2017」にエントリーしたことも忘れちゃいけないほ!



結果は3375票。企業・その他部門で第147位(エントリー数477位中)でした。   
応援していただき、ありがとうございました!   
さて、トーハクくん、来年は…?

来年も1月2日(火)から開館するほ!   



「博物館に初もうで」を開催します。   
2日・3日は和太鼓や獅子舞のイベントをお楽しみください!
 

2日には、ぼくたちも登場するほ!
時間は10:30、13:00、14:30で、各30分くらい、場所は本館前だほ。


今年もご来館いただき、ありがとうございました。     
2018年も、トーハクをよろしくおねがいいたします!

2018年 新年のご挨拶

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平成30年、2018年の初春にあたり、つつしんでお慶びを申し上げます。

さて今年もトーハクは2日から開館、恒例の新春企画「博物館で初もうで」ではじまります。

パンダのシャンシャン誕生で盛り上がる上野ですが、今年の干支は戌(いぬ)。ということで、明日2日から、イヌを表した絵画や工芸品を集めた新春特集展示「博物館に初もうで 犬と迎える新年」を開催します(1月28日まで)。人間にとって古い友だちであるイヌ。この展示では、円山応挙筆の「朝顔狗子図杉戸」をはじめ、イヌを表した作品をご覧いただきます。また、今年は松林図屏風の公開は4月の特別展「名作誕生-つながる日本美術」までお待ちいただきますが、京都国立博物館から国宝「釈迦金棺出現図」をお借りして展示(1月28日まで)するほか、国宝「古今和歌集(元永本)」下帖(1月14日まで)および重文となった「鳥獣戯画断簡」(2月4日まで)を新春特別公開としております。正月2日と3日には、和太鼓・獅子舞・クラリネットコンサートなど、初春を寿ぐイベントもございます。トーハクで日本のお正月をお楽しみいただければ幸いです。

平成館の特別展は、新年1月16日開幕の「仁和寺と御室派のみほとけ―天平と真言密教の名宝―」(~3月11日)にはじまり、春の「名作誕生―つながる日本美術」、夏の「縄文―1万年の美の鼓動」、秋の「大報恩寺(ほうおんじ)展」(仮称)、そして米国フィラデルフィア美術館との交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」と、多彩な展覧会が目白押しです。
加えて表慶館では、1月23日から「アラビアの道―サウジアラビア王国の至宝」を開催します(~3月18日[日])。
総合文化展では、新年2日から東洋館8室で台東区との連携企画で行う特集「呉昌碩(ごしょうせき)とその時代―苦鉄(くてつ *呉昌碩の号)没後90年―」が開幕します。また、今年は春の本館北側の庭園開放を昨年より延長して5月20日(日)までとし、「博物館でお花見を」の期間中だけでなく、春から初夏にかけての庭園散策をお楽しみいただけるようにいたしました。夏休みの教育普及企画や秋の「博物館でアジアの旅」など、時節に合わせさまざまな展示・催しものを展開してまいります。
一方、来るオリンピック・イヤー、そして2022年のトーハク150周年に向けて、本館の改修にも着手いたします。詳細は追って当Webサイトなどでご案内させていただきます。

2018年、多産・安産といわれる犬にあやかり、皆さまにとってワンダフルでオンリーワンな体験を生み出せるよう、いろいろと知恵を絞る所存です。皆さまのご多幸を心よりお祈り申し上げます。

館長 銭谷眞美
館長 銭谷眞美
考古展示室の
ハンズオン「埴輪 犬」とともに

特集「博物館に初もうで 犬と迎える新年」

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今年もお正月恒例の特集「博物館に初もうで」が始まりました!
平成30年の干支である戌(犬)は古くから世界中で人間に飼われていた、最も身近な友達ともいえる動物です。
今回の特集では、この犬にちなんだ東京国立博物館選りすぐりの作品をご紹介いたします。

まず、今年の目玉は何といってもこの「朝顔狗子図杉戸」です!

朝顔狗子図杉戸 円山応挙筆 江戸時代・天明4年(1784)
朝顔狗子図杉戸 円山応挙筆 江戸時代・天明4年(1784)

江戸時代を代表する巨匠・円山応挙(1733~95)の手によるこの杉戸絵、コロコロ・フワフワとした五匹の子犬が戯れる姿を愛らしく描いています。
12年前の戌年には切手趣味週間のデザインにも選ばれたこの絵は、数多くの名作を生みだした応挙の作品の中でも特に有名な逸品です。
前回みなさんの前にお目見えしたのが2015年の夏でしたから、おおよそ2年半ぶりの登場となります。

次に注目していただきたいのがこの「緑釉犬」。

緑釉犬 中国 後漢時代・2~3世紀 武吉道一氏寄贈
緑釉犬 中国 後漢時代・2~3世紀 武吉道一氏寄贈

中国の後漢時代(2~3世紀)に作られたこの犬の焼き物。先の丸まった耳と尻尾を立て、短い四肢を踏ん張って吠える姿がいじらしく、とても愛嬌ある表情をしています。
首輪と胴のベルトは、多産の象徴とされるおめでたい子安貝で飾られた凝った意匠で、飼い主から彼に注がれた愛情の深さが感じられます。
中国では古くから犬を表した工芸作品が作られましたが、これらは墓を守る番犬とも、死者を冥界へ導く犬とも言われています。
人間の最も身近な友人として、死後の世界においても犬と共にいたいと願った当時の人々の心情が偲ばれます。

さて、様々な分野の愛らしい犬たちが一堂に会するこの特集ですが、実は二つのテーマで構成されています。
一つは日本人に愛されてきたかわいらしい子犬や珍しい異国の犬の造形に注目する「いぬのかたち」。
もう一つは、常に人と共にあった犬の文化史的な意義を追う「いぬとくらす」です。
時に世俗から離れて暮らす牧歌的な理想の生活のなかに、時に都市の雑踏のなかに、あるいは美女に抱えられた犬の姿を通じて、人々の愛した犬のイメージとバラエティーに富んだ素材や表現による作品を楽しんでいただきたいと思います。

思わず顔がほころぶような可愛らしい犬たちと、そこに込められた愛情深いまなざしと共に新年をお迎えください。

特集 博物館に初もうで 犬と迎える新年
本館 特別1室・特別2室 2018年1月2日(火)~ 2018年1月28日(日)

 

呉昌碩のミ・リョ・ク

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このたび、15回目の節目を迎えた東京国立博物館と台東区立書道博物館の連携企画「呉昌碩とその時代―苦鉄没後90年―」(両館とも2018年3月4日(日)まで)では、清時代の掉尾(ちょうび)を飾る文人・呉昌碩(ごしょうせき)にスポットをあて、若き模索時代から最晩年までの作品と、その関係資料を紹介しています。
展示総数は両館あわせて176点! 前期(2018年1月28日まで)と後期(2018年1月30日~3月4日)で、書、画、印、硯、拓本を一挙公開!! というスペシャル企画です。
当ブログでは、2回に分けて呉昌碩の魅力をお伝えいたします。
前半戦では、呉昌碩の人となりについて概観したいと思います。

呉昌碩像軸 任伯年筆 清時代・光緒12年(1886) 個人蔵
親友・任伯年に描いてもらった僕の姿
呉昌碩像軸 任伯年筆 清時代・光緒12年(1886) 個人蔵 (呉昌碩43歳)
[展示:2018年1月30日(火)~3月4日(日) 台東区立書道博物館]


呉昌碩は、清時代の道光24年(1844)8月1日(新暦9月12日)、湖州安吉(あんきつ)県(現在の浙江(せっこう)省湖州市安吉県)で生まれました。
初名を俊(しゅん)、のちに俊卿(しゅんけい)といい、中華民国元年(1912)、69歳の時に昌碩(しょうせき)と改めました。字(あざな)は蒼石(そうせき)・倉碩(そうせき)、号は苦鉄(くてつ)・缶廬(ふろ)・大聾(たいろう)のほか20余種を用いました。
サブタイトルにある苦鉄は41歳から用いた号で、「苦鉄」と自ら刻した印の側款(そっかん)に、「苦鉄は良鉄なり」とあります。
呉昌碩は幼少から私塾に通い勉学に精を出しますが、17歳の時に太平天国の乱が起こり、21歳まで凄惨(せいさん)な避難生活を強いられます。

斉雲館印譜 呉昌碩作 清時代・光緒2年(1876) 東京国立博物館蔵
壮絶な避難生活にもめげず、高いこころざし!
斉雲館印譜 呉昌碩作 清時代・光緒2年(1876) 東京国立博物館蔵 (呉昌碩33歳)
[展示:2018年1月2日(火)~3月4日(日) 東京国立博物館]

しかし苦難の中でも学問への熱意は忘れず、芸苑の名士たちと交流を持ち、古印や書跡、青銅器などを鑑賞する機会を得て少しずつ見識を広めていきました。
不屈の精神で次第に書・画・印の才能を開花させていくその姿は、まさに苦鉄は良鉄なりの言葉そのものです。

彝器款識冊 呉昌碩筆 清時代・光緒12年(1886)頃 個人蔵
楊峴(ようけん)先生と一緒に鑑賞
彝器款識冊 呉昌碩筆 清時代・光緒12年(1886)頃 個人蔵 (呉昌碩43歳頃)
[展示:2018年1月2日(火)~3月4日(日) 台東区立書道博物館]


56歳で安東(あんとう)県(現在の江蘇(こうそ)省漣水(れんすい)県)の知事となりますが、腐敗した官界に耐えられず僅か1ヵ月で辞職します。
その頃すでに盛名を馳せていた呉昌碩は書画篆刻(てんこく)で生計を立て、旺盛な創作を展開しました。
上海に定住してからの16年間は老練の筆致が燦然(さんぜん)と輝き、時代を画する活躍を見せます。

墨梅自寿図軸 呉昌碩筆 中華民国14年(1925) 東京国立博物館蔵
ハッピーバースデー僕 With P(Plum)
墨梅自寿図軸 呉昌碩筆 中華民国14年(1925) 東京国立博物館蔵 (呉昌碩82歳の誕生日)
[展示:2018年1月2日(火)~3月4日(日) 東京国立博物館]



中華民国16年11月6日(新暦11月29日)、上海北山西路吉慶里(きっけいり)の自室にて84歳の生涯を閉じました。

行書王維五言句横披 呉昌碩筆 中華民国16年(1927) 個人蔵
最期にたどり着いた、悟りの境地
行書王維五言句横披 呉昌碩筆 中華民国16年(1927) 個人蔵 (呉昌碩84歳)
[展示:2018年1月2日(火)~3月4日(日) 東京国立博物館]


呉昌碩は、終生にわたって紀元前5世紀ごろの古代文字である石鼓文(せっこぶん)の臨書に励み、その風韻(ふういん)を書・画・印に結実させました。
また、若い頃に鑑賞した多くの金石資料にも刺激を受けて、自分なりの作風を築き上げています。
今回の展示では、呉昌碩が石鼓文以外の金石拓本にも幅広く目を向けていたという新資料を公開し、新たな呉昌碩像をお示しします。

臨散氏盤銘軸 呉昌碩筆 清時代・19~20世紀 個人蔵
ウブな僕の金トレ時代
臨散氏盤銘軸 呉昌碩筆 清時代・19~20世紀 個人蔵
[展示:2018年1月2日(火)~1月28日(日) 台東区立書道博物館]


呉昌碩は安吉という地方出身であり、田舎特有の泥臭さが詩・書・画・印において生涯染みわたっていますが、その不器用さとスケールの大きさ、そしてそこに金石の気が加わり、剥蝕(はくしょく)の味わいをもって新しい自分を見出して突き進んでいったところが呉昌碩の良さであり、凄さなのだと思います。
呉昌碩の師である楊峴が、そういう生き方でいい、自分のやり方で伝統をつくり、それを押し通すことが大事なのだ、と後押ししてくれたことも、心の支えになったことでしょう。

かつて篆刻家の小林斗盦(とあん)は、呉昌碩を「偉大なる不器用」と評しました。
呉昌碩のたくましい生きざまと作品に見え隠れする退廃的な美は、華やかだった清朝の文化が崩れていく最期のひと花だったのかもしれません。
清朝最期の文人は、多くの人々を魅了しつづけ、今日に至っています。

 

図録 呉昌碩とその時代-苦鉄没後90年-
図録 呉昌碩とその時代―苦鉄没後90年―

編集・編集協力:台東区立書道博物館、東京国立博物館、台東区立朝倉彫塑館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
定価:900円(税込)
ミュージアムショップにて販売
※台東区立書道博物館、台東区立朝倉彫塑館でも販売しています。

 

週刊瓦版
台東区立書道博物館では、本展のトピックスを「週刊瓦版」という形で、毎週話題を変えて無料で配布しています。
トーハク、朝倉彫塑館、書道博物館の学芸員が書いています。展覧会を楽しくみるための一助として、ぜひご活用ください。

関連事業
「呉昌碩と朝倉文夫」2018年1月5日(金)~2018年3月7日(水)
台東区立朝倉彫塑館にて絶賛開催中!


 

 

開幕! 特別展「仁和寺と御室派のみほとけ-天平と真言密教の名宝-」

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本日、特別展「仁和寺と御室派のみほとけ-天平と真言密教の名宝-」がついに開幕しました。


平成館1階のエントランス 本特別展バナー


平成館1階には仁和寺門跡が家元をつとめる「御室流華道」のいけばなを展示
※本日よりしばらくの間は平成館ラウンジでご覧いただけます。


開幕に先立ち、前日の15日(月)に行われた開会式と内覧会にも多くのお客様にご出席いただきました。開会式には御来賓として高円宮妃久子殿下にお越しいただきました。


開会式には多くのお客様にご出席いただきました


銭谷 当館館長の開会の挨拶(写真:右から銭谷 東京国立博物館長、立部 総本山仁和寺門跡・真言宗御室派管長、老川 読売新聞グループ本社取締役最高顧問・主筆代理、六條 道明寺住職、小泉 龍華寺檀家代表、宮田 文化庁長官、阿部 光村印刷代表取締役社長)

仁和寺は宇多天皇が仁和4年(888)に完成させた真言密教の寺院です。歴代天皇の厚い帰依を受けたことから優れた文化財が数多く伝わります。本展では、これら仁和寺に伝わる名宝を紹介するとともに、仁和寺を総本山とする御室派寺院に伝わる名宝の数々も集結します(会期中展示替あり)。

展覧会は5章構成。
第1章ではまず、仁和寺の歴史を展観します。御願寺(皇室の私寺)として歴代天皇より崇敬をされていたことを物語る数多くの「宸翰」(天皇の書)を中心に、歴代門跡の肖像画や古文書を展示します。中でも見逃せないのは、2014年度に修理が完了した弘法大師・空海ゆかりの国宝「三十帖冊子」。こちら、本日から1月28日(日)まで限定で展覧会史上初、三十帖すべてを公開します!


国宝 三十帖冊子 空海ほか筆 平安時代・9世紀 京都・仁和寺蔵 ※通期展示(帖替あり)、全帖公開は1月28日(日)まで

第2章では、密教の世界における儀式「修法」に関わる名品を、

第3章では火災や戦火に遭いながらも守られてきた仁和寺と御室派寺院の宝蔵に納められた宝物をご覧いただきます。



密教修法の孔雀経法の本尊画像  国宝 孔雀明王像 中国・北宋時代・10~11世紀 京都・仁和寺蔵 展示期間:~2月12日(月・休)

仁和寺の伽藍も京都を戦場とした応仁の乱で焼失してしまいます。それが復興されたのは江戸時代初期、覚深法親王(1588~1648)の頃。4章ではその復興の歴史をご紹介します。また、復興された諸堂のうち、普段は非公開の観音堂の内部を実際に安置されている33体の仏像と、壁画の高精細画像で再現しました。こちらはなんと皆さん撮影OK!SNSなどでどんどん拡散してください!

実際の安置物とともに再現された仁和寺・観音堂


観音堂内部の壁画も高精細画像でリアルに再現

最後の5章は、「御室派のみほとけ」。こちらでは仁和寺と御室派寺院が誇る仏像の名品をずらっと展示します。さらにこの章のクライマックスは秘仏コーナー。普段はお寺でも公開されていない多くの秘仏を展示。お寺に行ってもめったに見られない秘仏がこれだけ一堂にご覧いただける機会はそうありません!仏像ファン以外の方も必見です!


秘仏本尊! 国宝 十一面観音菩薩立像 平安時代・8~9世紀 大阪・道明寺蔵 通期展示


秘仏本尊! 重要文化財 馬頭観音菩薩坐像 鎌倉時代・13世紀 福井・中山寺蔵 通期展示   


以上、展覧会の全体を駆け足でご紹介いたしました。特別展「仁和寺と御室派のみほとけ-天平と真言密教の名宝―」、会期は3月11日(日)まで。今後、まだまだ伝えきれていない本展の見どころをこちらのブログでご紹介していきます!乞うご期待!
 


「日本美術のあゆみ―信仰とくらしの造形―」展

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2017年12月27日から2018年2月18日まで,タイ王国バンコク市のバンコク国立博物館においてタイ文化省芸術局,文化庁,東京国立博物館,九州国立博物館,国際交流基金主催の「日本美術のあゆみ―信仰とくらしの造形―」展が開催されています。タイでは1997年に「日本の陶磁展」、2011年に「日本とタイ―ふたつの国の巧と美展」が開催され今回で3回目となります。

バンコク国立博物館
バンコク国立博物館

展示構成は縄文時代から江戸時代までの作品106件で、タイにおいて日本美術を総合的に紹介する初めての展覧会です。今回、普段はタイの美術の歴史を紹介している展示室(Gallery of Thai History)を、「日本美術のあゆみ―信仰とくらしの造形―」展のために、昨年から展示環境構築、展示デザインを含め展覧会開催に向け力を注いできました。ここでは展示環境構築、展示デザインについてご紹介いたします。

普段のタイの美術の歴史展示の様子
Gallery of Thai History
普段はタイの美術の歴史の展示をしている


Gallery of Thai History の平面図
Gallery of Thai History の平面図
柱と柱の間のデッドスペースが多い



・ゆったりと鑑賞できる作品レイアウト 
大きさも様々な彫刻、絵画、書跡、工芸、考古作品がお互いに適切な距離を保ちながら空間の広さを感じられるように5面ガラスやアクリルの展示ケースを用い、デッドスペースの柱と柱の間へも仮設ケースを作り展示を構成しました。

「1章 日本美術のはじまり」の展示の様子
「1章 日本美術のはじまり」の展示の様子

「2章 仏教美術」の展示の様子
「2章 仏教美術」の展示の様子

雛人形は柱と柱の間のケースで展示しました
雛人形は柱と柱の間のケースで展示しました。


・作品が安全に展示され、見やすいこと
考古と一部の工芸作品に専用の支持金具を作りグラフィックを用いて、使い方などが想像できるように展示しました。

銅剣などの展示の様子
銅剣などの展示の様子
(図右:06_吉田広2014「弥生青銅器祭祀の展開と特質」『国立歴史民俗博物館研究研究報告』第185集 より)

簪の展示とイメージグラフィック
簪の展示とイメージグラフィック


・日本美術の繊細な細部を鑑賞できること
鑑賞者から作品までの距離を可能な限り近くなるように展示しました。工芸作品や絵画などに限らず細部が見られる事は、作品をじっくりと鑑賞できることにつながります。


ガラスから作品までの奥行が短くなるようにパネルを設置。絵画や書の細部が鑑賞しやすくなっています。

畳を使った茶の湯の展示の様子とお茶室の解説グラフィック
畳を使った茶の湯の展示の様子とお茶室の解説グラフィック


・展示室と展示ケースの温湿度環境の改善
以下のグラフは「展示室内(エントランス付近)」の温湿度グラフと「雛人形が展示された展示ケース内」の温湿度グラフです。雛人形の展示ケース内の変動幅は小さく、一定の温湿度の範囲内に収まっていることがわかります。

展示室内の温湿度
「展示室内(エントランス付近)」の温湿度グラフ

展示ケース内の温湿度
「雛人形が展示された展示ケース内」の温湿度グラフ
一定に保たれていることが分かります


このように安定した展示環境は、バンコク博物館と東京国立博物館の環境保存室が協力し、展示室の空調を24時間稼動、気密性能の高い展示ケースを製作したことではじめて実現できました。


この他にも浮世絵版画を作るワークショップなど日本文化を伝える展示をおこなっています。展覧会を訪れた方々が日本の美意識の一端を感じられる展示であれば幸いです。

次回、「日本美術のあゆみ―信仰とくらしの造形―」展のブログ第二弾では、展示の内容についてご紹介します。
 

日タイ修好130周年記念「日本美術のあゆみ―信仰とくらしの造形―」展

開催期間:2017年12月27日~2018年2月18日
開催場所:バンコク国立博物館
主催:タイ文化省芸術局,文化庁,東京国立博物館,九州国立博物館,国際交流基金
協賛:日本航空,GLASBAU HAHN,タキヤ株式会社,油脂製品株式会社,日油株式会社、株式会社カネカ,ミネベアミツミ株式会社,株式会社岡村製作所
協力:総務省(会場における8K画像提供)
後援:在タイ日本国大使館,タイ国日本人会

 

空海の「三十帖冊子」、全30帖公開中です

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今週から特別展「仁和寺と御室派のみほとけ」が始まっていますが、もうご覧になっていただけたでしょうか。実は、仁和寺に伝わるあの国宝、空海の「三十帖冊子」を、展覧会史上初めて、全30帖を一挙公開しています(~1月28日(日)まで)。


三十帖冊子 展示風景

「三十帖冊子」とは、弘法大師空海(774~835)が、遣唐使として中国(唐)に渡った際(804~806年)に、現地で経典などを写して持ち帰ってきたものです。携帯できる小型の冊子本で、空海は生涯手元に置いていたと考えられています。

 
三十帖冊子 中国の写経生の書写部分

空海は、唐において、真言八祖の一人である恵果(746~806)に学び、多くの経典を書写させてもらいました。20人余りの唐の写経生にも写してもらったという記録があり、「三十帖冊子」には、空海以外の書がたくさん含まれています。その写経生の書の多くは、とても小さな楷書で、丁寧に写されているように見受けられます。


三十帖冊子 空海直筆部分

そして空海も、「食寝を忘れて」書写したそうです。小さめに書いてはいますが、写経生よりも大きな文字になっています。行書で書写している部分も多いため、中国の写経生の文字と比較すると、印象ががらりと変わります。それにしても、空海の「聾瞽指帰」(国宝、金剛峯寺所蔵)や「風信帖」(国宝、東寺所蔵)と比べると、「三十帖冊子」の文字は1センチになるかならないか程の、小さい文字です。

 
展覧会オリジナルグッズ 空海の四十八文字御手本カードセット 4,536円

そんな小さな文字ですが、このように大きく拡大してみると、やはり空海!。一文字一文字に雰囲気があり、筆の穂先を自在に使いこなしているのが見て取れます。今回、「三十帖冊子」の中から、48文字を抜き出して拡大し、空海の書の手本帖がミュージアムグッズになりました。「三十帖冊子」には、空海の書の魅力が満載です!

「仁和寺と御室派のみほとけ」展の図録に、「三十帖冊子」の歴史を書かせていただきました。空海が生涯大切にした「三十帖冊子」が、紆余曲折を経て仁和寺に伝わり、仁和寺は応仁の乱で焼けましたが、そんな中でも護り続けられてきたものです。そして、6か年かけた修理が平成26年度に終了したため「三十帖冊子」全30帖をそろって観ることがかないました。

空海の息遣いが感じられる「三十帖冊子」、全帖すべてが見られるのは1月28日(日)まで。ぜひ全30帖をご覧になってください。
 

開幕! 「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」

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本日23日、「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」がついに開幕しました。


本展覧会会場の表慶館(重要文化財)。22日の報道内覧会は大雪に…

古代より人々と諸文明の文物が行き交ったアラビア半島。本展は、その歴史と文化を示すサウジアラビア王国の至宝を日本で初めて公開するものです。

展示は「道」をキーワードに5章構成。第1章は「人類、アジアへの道」。100万年以上前にさかのぼるアジア最初期の石器、5000年前に砂漠に立てられた人形石柱など、先史時代の人々の活動をご紹介します。


人形石柱 カルヤト・アルカァファ出土 前3500~前2500年頃 サウジアラビア国立博物館蔵
本展のメインビジュアル 

第2章は「文明に出会う道」。前2500年頃からメソポタミア文明とインダス文明をつなぐ海上交易で反映したアラビア湾(ペルシャ湾)沿岸地域の出土物を展示します。


祈る男 タールート島出土 前2900~前2600年頃 サウジアラビア国立博物館蔵
メソポタミア美術の特徴を示す表情やポーズ 

第3章は「香料の道」。前1000年以降に香料交易で賑わったオアシス都市の出土品を展示します。


テル・アッザーイルで出土した黄金製品の数々

第4章は、「巡礼の道」。マッカ(メッカ)、マディーナ(メディナ)という2大聖地を擁するアラビア半島への文字通り巡礼がテーマ。17世紀から聖地マッカのカァバ神殿で実際に使われていた扉やクルアーン(コーラン)の写本などを展示。アラビア文字が刻まれた墓碑の美しい書体も必見です。


カァバ神殿の扉 オスマン朝時代・1635年または1636年 サウジアラビア国立博物館蔵
鈍い輝きに歴史の重みを感じずにはいられない  

最後の第5章は、「王国への道」。現在のサウジアラビア王国の初代国王となったアブドゥルアジーズ王の豪華な遺品を展示します。


アブドゥルアジーズ王の刀 20世紀 キング・アブドゥルアジーズ財団蔵
黄金に輝く刀! 

以上、全5章構成で展示件数400件超。そのすべてがサウジアラビア王国からの作品で、かつ日本初公開のものばかり。実は…それがなんと総合文化展料金でご覧いただけるんです!!ということは、現在開催中の「仁和寺と御室派のみほとけ」展のチケットでもご覧になれるということです。「仁和寺と御室派のみほとけ」展、総合文化展目当てで来られる方も、ぜひ表慶館にもお立ち寄りください。
なお、2月4日(日)まではアラブ・イスラーム学院のご協力により、「アラビア体験」と題して、表慶館前にてアラビアの遊牧民テント内で、アラブ世界で楽しまれているアラビックコーヒーに関する民具や、香炉、ナツメヤシの葉で編んだ敷物やかご、毛織物、伝統衣装などを展示します。さらにアラビックコーヒーとデーツ(ナツメヤシの実)を無料でご提供します!(※)


アラビアの遊牧民テント


アラビックコーヒーとデーツ

それから最後にもう1点注目ポイント!なんとこの展覧会、展示作品すべて撮影OKなんです!明治末期の洋風建築を代表する表慶館(重要文化財)は基本的にはイベントや展覧会の開催中しかお入りいただけません。ということは、この素晴らしくフォトジェニックな館内も撮り放題ということです。とっておきの1枚をカメラにお収めください!


エントランスを見上げると美しいドーム天井が


階段手すり。その曲線美!

というわけで注目ポイント満載のこの展覧会、会期は3月18日(日)まで。ご来館の際は、表慶館にもぜひ足をお運びください!

※ アラビア体験は1月23日(火)~2月4日(日)、アラビックコーヒーとデーツの無料配布は各日先着1,000名となります。

「日本美術のあゆみ―信仰とくらしの造形―」展 その2

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1月17日のブログで紹介されたように、現在、バンコク国立博物館で、タイ王国文化省芸術局、文化庁、当館、九州国立博物館、国際交流基金の主催により、日タイ修好130周年記念展「日本美術のあゆみ-信仰とくらしの造形-」(2017年12月27日(水)~2018年2月18日(日))が開催されています。

昨年の春と夏に九州と東京で、タイ国外初出品も含む貴重な文化財を多数出品いただいた、日タイ修好130周年記念特別展「タイ~仏の国の輝き~」(2017年7月4日(火)~2017年8月27日(日))のお返し展という位置づけもあるこの展覧会。国宝3件、重要文化財25件を含む106件という規模で、総合的に日本美術を紹介するタイでは初の展覧会となっています。

展覧会は全体として、第1章 日本美術のあけぼの、第2章 仏教美術、第3章 公家と武家、第4章 禅と茶の湯、第5章 多彩な江戸文化、の5章から構成されています。

第1章では、日本に仏教が公式に伝来する以前、縄文、弥生、古墳時代の、火炎式土器や遮光器土偶、銅鐸、埴輪といった各時代を代表する作品を展示しています。特に人気なのは遮光器土偶。ドラえもんの映画、「新・のび太の日本誕生」で登場したツチダマで馴染みがあるようです。埴輪もにっこりとした微笑みがタイ人の好みにあっているそうで、人気の作品の一つとのこと。

人気の遮光器土偶
人気の遮光器土偶

笑顔が人気の埴輪 鍬を担ぐ男子
笑顔が人気の埴輪 鍬を担ぐ男子

第2章は日本に仏教が伝来した初期の頃の朝鮮半島系の金銅製の菩薩半跏像から、量感ある造形の9世紀の薬師如来坐像、撫肩で優美な姿の11~12世紀の大日如来坐像、全体にシャープな彫りと玉眼を用いた生生しい表情が特徴の鎌倉時代の如意輪観音坐像まで、大まかな仏像の流れがたどれるようにしています。
基本的にタイは上座仏教の国。仏像もほぼ釈迦像のみなので、様々な種類の仏像は、それらがどういう場面でどのように用いられたのか興味深々のようです。
仏画ではタイの方々にも馴染みある題材の涅槃図、そして堂内荘厳に用いる塼や華鬘や、法要に用いる密教法具などを展示しています。

「2章 仏教美術」の展示の様子
「2章 仏教美術」の展示の様子

第3章は、日本の歴史の中で常に政治的権力と文化の担い手となった公家と武家という二大階級の文化を示す作品を展示しています。公家文化として意匠を凝らした蒔絵の手箱、男性・女性の貴族の装束、公家文化の象徴ともいえる源氏物語を描いた屏風、武家文化として、太刀、刀、甲冑、武家女性の着物、武家のたしなみでもあった能の面、装束などを展示しています。このコーナーでは能面のうち、「万媚」と呼ばれる、色気と妖気を備えた高貴な若い女性を表現した面が人気とのこと。口元に僅かにたたえた微笑みがポイントのようです。

能面 万媚
能面 万媚

第4章は茶入、釜、茶碗、茶杓、花入、懐石道具としての鉢や蓋物、床の掛物としての墨蹟、水墨画といった、茶事で用いられる一通りの道具を展示し、茶の湯の世界への入り口としています。

「第4章 禅と茶の湯」の展示の様子
「第4章 禅と茶の湯」の展示の様子

第5章は町人文化の豊かさを示す、素材や技法、模様に意匠を凝らした町方女性のお洒落な着物、細部の細工にこだわった櫛や簪、春信、歌麿、写楽、北斎、広重、国芳の浮世絵、そして現代にも続く風習である雛人形などを展示しています。中でも北斎はタイでも知名度高く人気。また、春信の愛らしい女性像も好まれるようです。

舫い船美人 鈴木春信筆
舫い船美人 鈴木春信筆

会場の出口付近には北斎の「冨嶽三十六景」の中から「神奈川沖浪裏」をもとにした、簡易的な多色刷り版画の体験コーナーも。本来8回刷りのものを今回はインク4色で4回刷りとしています。
これが開幕直後から長蛇の列ができるほどの大人気。

長蛇の列ができるほど大人気の多色刷り版画の体験コーナー
長蛇の列ができるほど大人気の多色刷り版画の体験コーナー

展覧会そのものも非常に好評で、タイ王室のシリントーン王女殿下も行啓され、メモだけでなくスケッチもされながら2時間近く熱心にご覧になられました。

タイ王室の王女殿下行啓の様子
遮光器土偶の前でメモをとるシリントーン王女殿下

そして、ウィラ文化大臣も大変関心を持って下さり、準備段階から一般公開日までの間に4回も視察にお見えになられました。大臣は建築学を学び、日本への留学経験もある方で、現在も日本での歴史的景観保存・活用の事例研究などをされていらっしゃるそうです。
今回の展覧会への力の入れようは、自ら政府の広報部署へ展覧会の広報の指示を出されるほど。また、会期の前半最終日の1月21日には、開催記念として、ご自身の日本での経験に基づく日本文化に関する豊かな知識や鋭い観察眼を披露されました。タイでも大臣がこのような講演をされるのは異例とのこと。

ウィラ文化大臣講演チラシ
ウィラ文化大臣講演チラシ

大臣のあとに私も展覧会の内容についてお話をさせてもらいましたが、注目は午後の矢野主任研究員を交えたタイ側スタッフとの展示計画やケース制作、環境調整等に関する公開シンポジウム。

シンポジュームの様子
シンポジウムの様子(右から2番目が矢野主任研究員)

以前の矢野主任研究員の記事にもあったように、今回の展覧会開催に当たっては、作品選定はもちろんですが、その前提となる会場の環境整備から会場デザイン、ケース設計まで日本とタイ両国の各専門の担当者が何度も協議を重ね共に作り上げたものです。
その過程では、気候や文化の違いによる様々な困難も多々ありました。今回は国宝、重要文化財を多数出品するということで条件は厳しいものになります。
しかし、各担当者、特に保存担当の和田環境保存室長とデザイン担当の矢野主任研究員が、毎月タイに足を運び、現地の担当者と実地に膝を突き合わせて何度も協議を重ねる中で互いの信頼関係が生まれ、それに応じるようにタイ側も従来の常識を超える対応をして下さり、作品の質も、ケース設計も含めた会場デザインも、130周年の記念の展覧会にふさわしい上質のものとなったのです。

ケース設計の様子
会場でのケースモックアップのテスト
日本とタイ両国の各専門担当者が協議中

日本とタイ両国の各専門担当者が協議中
日本とタイ両国の各専門担当者が協議中

そうした経緯をタイ側の展覧会運営のトップの方から、保存、デザイン担当の方までそれぞれの視点で語られ、今後のタイ国内各地の国立博物館のリニューアルなどに今回の経験が活かされることが述べられていました。

単に作品を貸す側と借りる側という関係で終わらず、ともによりよい展示を作りあげ、お客様はもちろん、展示に関わった人にも喜びがあり、それが今後にも繋がっていくということを実感できた海外展となったことはとても得難い経験でした。

今後の更なる日タイ友好の一助となってもらえれば幸いです。
会期はあと1か月弱ありますので、タイに行かれる機会のある方はぜひ、訪れてみてください!コップ・クン・クラッープ!

仁和寺の観音堂内部を再現!

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現在開催中の特別展「仁和寺と御室派のみほとけ」(3月11日(日)まで)では、普段は非公開の仁和寺観音堂の堂内を再現したコーナーがあります。まるで本物のお堂のなかにいるかのような臨場感があり、仁和寺のお坊さんも驚きのクオリティー。たしかに、見れば、本物か?と、思わず柱に触りたくなってしまいます。触ってはいけません。でも、写真撮り放題の大判ぶるまいです。


観音堂内部の再現(第四章 仁和寺の江戸再興と観音堂)

観音堂は、もともと観音院といい、創建は平安時代にさかのぼりますが、現在のお堂は江戸時代初期に再興されたものです。現在、修行道場として用いられています。


観音堂外観

ご本尊は千手観音菩薩立像。観音さまは、33通りの姿かたちに変身(三十三応現身)して、地獄に落ちた人々までも救うミラクルなパワーをもっており、古くより人々に絶大な人気を誇ってきました。ご本尊のまわりに脇侍として不動明王立像と降三世明王立像、そして千手観音立像に付き従う二十八部衆像と風神・雷神像が並ぶ様は、まさに圧巻です。

お像には鮮やかに彩色が残っていることから、レプリカ!?と思われる方もいらっしゃるようですが、正真正銘の本物です。観音堂の完成と同時期の作とみられます。彩色をしたのは、観音堂の壁画を描いた木村徳応という絵仏師でした。徳応については、以下にふれます。


壁画は高精細デジタルスキャナで取得した画像です。照明の明るさと照合させて、描かれた尊像が映える紙に印刷されています。壁画の正面に描かれるのは、観音の聖地で説法をする観音とその33の応現身。


須弥壇正面の壁画 部分。補陀落山で説法をする観音菩薩を中心に、そのまわりに観音の三十三応現身の一部が見えます 



裏側の下段には、六道という、人が生前の行いによっておもむく6種の世界が描かれており(地獄道・餓鬼道・畜生道・阿修羅道・人間道・天上道)、その上には、それぞれの道に堕ちた人の救済を担当してくれる観音菩薩が描かれています。



六道のうち畜生道


亡者の生前の行いを映し出す浄玻璃の鏡。獄卒に鏡の前に引き立てられた亡者は、鏡のなかに、殺生をする自分自身の姿を見ることになってしまいます


六道のうちの地獄道。紅蓮の炎に包まれる地獄の大釜とそこに落とされようとしている人々

内陣を取り巻く板壁にも、『法華経』という日本でもっともポピュラーな経典にもとづいて、観音の救済場面が細かに描き出されています。


観音堂内陣の壁画

これらの壁画を描いたのは、近年注目を集めている木村徳応という絵仏師です。生年は文禄2年(1593)と考えられており、少なくとも75歳ごろまで活動していたことが知られています。当時の記録にも「仏画をよくし、諸宗の祖師像をよく写す。諸山に多く蔵せり。仏画師中の健筆たり」と評されており、江戸時代前期、京都を中心に、宗派を問わずさまざまな寺院で活躍していました。


徳応は、京都の黄檗宗万福寺に所蔵される涅槃図や寺を開いた隠元禅師の肖像画、万福寺にほど近い浄土宗平等院の十一面観音厨子扉絵など、仏画や肖像画を多く描いていたことが知られています。仁和寺の観音堂の大画面壁画は、徳応50代前半ごろの大作です。現在知られるなかでは徳応の画業のなかでも特筆すべき大作ですが、観音堂が非公開ということもあり、これまであまり知られていませんでした。

観音堂壁画に見る徳応の描線は、筆の入りに打ち込みがあって力強く、非常に明快な印象を受けます。彼の若い時期の作品に共通するものと言えるようです。


この知られざる江戸仏画にも、ぜひご注目ください。
 

呉昌碩のミ・リョ・ク《続編》

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このたび、15回目の節目を迎えた東京国立博物館と台東区立書道博物館連携企画「呉昌碩とその時代―苦鉄没後90年―」(両館ともに2018年3月4日(日)まで)では、清時代の末から中華民国の初めにかけて一世を風靡した文人・呉昌碩の書・画・印や、硯・拓本を一挙に公開しています。呉昌碩の為人(ひととなり)と各世代の名品を概説した前半のブログを受けて、ここではピンポイントで呉昌碩のエピソードをご披露しましょう。

呉昌碩写真
僕の姿、全部見せます!
呉昌碩写真、中華民国10年(1921)、(呉昌碩78歳)
台東区立朝倉彫塑館蔵
展示:2018年1月4日(木)~3月4日(日)台東区立書道博物館


太平天国の乱で多くの家族を喪(うしな)い、辛うじて父と二人で生き延びた呉昌碩でしたが、25歳の時に父が逝去。その4年後に、呉昌碩は施酒(ししゅ)と結ばれるものの、安穏(あんのん)と郷里に暮らす経済力もなく、各地を転々として多くの師友と交わり、見識を広めていきました。模索時代の呉昌碩に、精神的にも技芸においても、温かい手を差し伸べた師友の一人が楊峴(ようけん)です。
楊峴もまた、太平天国の乱で次女以外の家族を喪い、捕虜となった次男の鴻煕(こうき)は行方が分からなくなる艱難(かんなん)を嘗(な)めていました。詩文書画はもちろん、鑑定にも造詣が深い楊峴を呉昌碩は師と仰ぎ、師弟の契りを結びたいと申し出ますが、楊峴は友人の関係が良いと、婉曲に断りました。楊峴は25歳年少の呉昌碩に、息子の姿を重ねていたのかも知れません。楊峴と意気投合した呉昌碩は39歳の時に家族を連れて、何と蘇州の楊峴の隣に転居、二人は創作の理念から体調不良時の漢方の処方に至るまで、ありとあらゆる事象を語り合いました。

行書缶廬潤目横披
明朗会計、この価格でお引き受けします。
行書缶廬潤目横披、楊峴筆、清時代・光緒16年(1890)、(呉昌碩47歳)
個人蔵
展示:2018年1月2日(火)~3月4日(日)東京国立博物館


呉昌碩は44歳の時に、友人の資金援助を受けて上海県丞(けんじょう)の官職を買い、上海に転居します。しかし、小官の俸給だけでは生活もままならず、売芸によって糊口を凌いでいました。そんな呉昌碩を、楊峴が側面から支えた作例が行書缶廬潤目横披(ふろじゅんもくおうひ)です。潤目とは価格のことで、この価格一覧表には、例えば印は一文字6銭、極大印や極小印、質の悪い印材は受け付けない。書斎名の揮毫(きごう)は4円、ただし過大なものは受け付けない、などと書かれています。晩年、70代の呉昌碩は地位も名誉も手に入れ、何度も潤目を増訂していますが、この潤目は呉昌碩47歳、現存する最も若い作例です。書家・詩人として盛名を馳せていた楊峴が、若い呉昌碩のために揮毫した潤目は、大きな訴求力があったことでしょう。

牡丹図軸
楊峴先生の自宅で描きました。
牡丹図軸、呉昌碩筆、清時代・光緒21年(1895)、(呉昌碩52歳)
東京国立博物館蔵
展示:2018年1月30日(火)~3月4日(日)東京国立博物館

呉昌碩は56歳の時に、彼の官歴の中では最も高い地位となる安東県(江蘇省)の知事となりました。しかし、世事に疎(うと)い呉昌碩は上司や有力者への挨拶を怠ったため軋轢(あつれき)が大きくなり、わずか一ヶ月で辞職してしまいます。呉昌碩は、80日で官を辞した陶淵明(とうえんめい)の故事を踏まえて、「一月安東令」(一ヶ月だけ安東の知事を拝命した)という印や、「棄官先彭沢令五十日」(陶淵明より50日も早く辞職した)という印を書画に押して、芸苑を沸かせました。呉昌碩にとって、書画印のみで生計を立てる決意は大英断だったと思われますが、呉昌碩の書画はその後数年の間に、格段の進歩を遂げました。

「一月安東令」(『缶廬印存』より)
僕は一ヶ月で辞めました。
「一月安東令」(『缶廬印存』より)、呉昌碩刻、清時代・光緒25年(1899)、(呉昌碩56歳)
東京国立博物館蔵
展示:2018年1月2日(火)~3月4日(日)東京国立博物館


張瑞図後赤壁賦識語
襟を正して書きました。
張瑞図後赤壁賦識語、呉昌碩筆、中華民国2年(1913)、(呉昌碩70歳)
台東区立書道博物館蔵
展示:2018年1月4日(木)~3月4日(日)台東区立書道博物館


70代は作品の注文が殺到し、中には凡庸な作も見受けられます。しかし歴代の書画に記した行草書の識語は、謹厳な書きぶりに玲瓏(れいろう)な響きをたたえる傑作ばかり。呉昌碩は、歴史の中の自分を見つめながら書いていたのでしょう。

今回の連携企画では、呉昌碩が渦中にあった19歳から、没年にあたる84歳まで、各世代の作品を展示しています。西欧から近代的な思想が輸入され、多くの知識人が新旧の相克に悩んでいた時、古き良き伝統の護持者となった呉昌碩。書・画・印など多分野にわたる作風の変遷を通して、激動の時代に生まれ合わせた呉昌碩が何を見つめ、筆墨に何を託そうとしたのか、清朝最期の文人と称される呉昌碩の琴線に触れてみてください。

図録 呉昌碩とその時代―苦鉄没後90年―
図録 呉昌碩とその時代―苦鉄没後90年―

編集・編集協力:台東区立書道博物館、東京国立博物館、台東区立朝倉彫塑館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
定価:900円(税込)
呉昌碩の書斎の立体見取り図など、付録も充実!
ミュージアムショップにて販売中。
※台東区立書道博物館、台東区立朝倉彫塑館でも販売しています。

週刊瓦版
台東区立書道博物館では、本展のトピックスを「週刊瓦版」という形で、毎週話題を変えて無料で配布しています。
トーハク、朝倉彫塑館、書道博物館の学芸員が書いています。展覧会を楽しく観るための一助として、ぜひご活用ください。

関連事業
「台東区と朝倉文雄」 2018年3月7日(水)まで。
台東区立朝倉彫塑館にて絶賛開催中!
 

私のお気に入りの1点(「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」より)

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「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」展はオープンして3週目。
連日多くのお客様にご観覧いただいております。どうもありがとうございます。

この展覧会、総合文化展チケット、仁和寺展チケットで見ることができ(!)、
すべての展示品が撮影可能です(フラッシュ、三脚はNG)!
ということは、表慶館の内部も撮影できます!

 
表慶館内部

さて、今回は、じっくりご鑑賞いただきたい展示品を1つご紹介いたします。
「カァバ神殿の扉」です。


カァバ神殿の扉  オスマン朝時代・1635または1636年  サウジアラビア国立博物館蔵

時の経過とともに表面の金色はだいぶ剥がれてしまいましたが、
展示室で鈍く輝く扉には重厚感があり、その歴史を感じさせます。
イスラーム教徒でもなく、考古学を専門とする(普段、発掘品や古代のモノばかりに興味を示します・・)僕にとっても、最も印象的な展示品の一つで、
前を通りかかるたびに、立ち止まって見入ってしまいます。

イスラームの聖地、マッカ(メッカ)の聖モスク。
その中心にある1辺が10mちょっとの、立方体に近い外観の石造建築がカァバ神殿です。
イスラーム教徒にとって最も重要な聖地であり、
たくさんの巡礼者がひしめきながら神殿の周囲を回ります。
マッカ巡礼(ハッジ)はイスラーム教徒の5つの義務の一つであり
巡礼者個人にとっては、人生の一大イベントでもあります。


キスワ マッカ 1992年 サウジアラビア国立博物館蔵

カァバ神殿はキスワと呼ばれる黒い布で覆われています。
キスワは金糸による刺繍で彩られています。実物をみると立体感があります。

扉にもどります。


上部にある優美な書体の銘文は、イスラームの聖典クルアーン(コーラン)の一節と、
オスマン朝のスルターン、ムラト4世による扉の設置を記したもの。


マッカの聖モスクは1630年に発生した洪水で大きな被害を受けました。
カァバ神殿の扉の中央付近まで水が押し寄せたことが記録されています。
その後、カァバ神殿はムラト4世による大改修が実施され、現在の姿となりました。
新しい扉は、オスマン朝の都イスタンブールで、
おそらく王室直属の工房で製作されたものと考えられています。
扉の設置(1635または1636年)は、大改修工事の締めくくりとなったようです。
以降この扉は、およそ300年にわたって使われ、多くの巡礼者たちを迎えました。


1937年に撮影されたカァバ神殿の写真。同じ扉がまだ使われています


カァバ神殿の扉 中央部分

扉のアクセントになっているのが、中央を飾る印象的なマンダラ装飾。
よく見ると、その周囲にも精緻な植物文様が打出されているのがわかります。
こうした装飾は、扉が製作された17世紀前半にはほとんど類例がないもので、
おそらく、「先代の扉」に施されていた文様を受け継いだものとみる研究者もいるようです。


カァバ神殿の扉 裏面

ちなみに、人目に触れることのない扉の裏側にも、装飾が彫り込まれています。
写真のように、「カァバ神殿の扉」は左右2枚の扉で構成されています。
見た目以上に重量があり、展示作業では、力持ち6人で片方ずつ慎重に運びました。

イスラームの2大聖地である、マッカの聖モスク、マディーナの預言者モスクを管理し、
多くの巡礼者を保護することは、イスラーム世界の有力な君主が代々務めてきた重要かつ名誉ある役割。
現在はサウジアラビア国王が「二聖モスクの守護者」の称号を受け継ぎ、
聖地のモスクを管理しています。


現役の「カァバ神殿の扉」は装飾のデザインが一新され、金色に輝いています

ということで今回の展覧会、
なかなかお目にかかることのできない「カァバ神殿の扉」を、間近で見ることができる大変貴重な機会です!
展示室で、イスラームの聖地マッカ(メッカ)に思いをはせてみてはいかがでしょうか。
 


【1089考古ファン】和歌山の埴輪

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1月から平成館考古展示室では、特集「和歌山の埴輪―岩橋千塚と紀伊の古墳文化―」(~3月4日[日])を開催中です。

考古展示室内、古墳時代のコーナーにある展示ケースで展示中

この特集は和歌山県立紀伊風土記の丘から、岩橋千塚(いわせせんづか)古墳群の作品をお借りして展示しています。
この岩橋千塚古墳群とは和歌山市の紀ノ川流域に造られた大古墳群です。
4世紀末から7世紀後半にかけて作られた総数約850基の古墳が分布し、国の特別史跡に指定されています。

奥の山が岩橋千塚古墳群です


和歌山県立紀伊風土記の丘資料館

岩橋千塚古墳群のなかでも、紀ノ川流域を一望することができる、たいへん眺望の良い所に築造されたのが大日山35号墳(6世紀前半)です。
和歌山県最大の前方後円墳であり、東西の造出(つくりだし/前方後円墳のくびれ部の両側に付設された方形台状の突出部のこと)からは数多くの珍しい埴輪が出土したことが著名です。

大日山35号墳は山の上にあります


大日山35号墳の復元埴輪


大日山35号墳からみた紀ノ川流域

ここで、特集で展示をしている大日山35号墳出土の埴輪のなかから、代表的なものをご紹介します。
まず重要文化財「翼を広げた鳥形埴輪」です。

重要文化財 翼を広げた鳥形埴輪
和歌山県教育委員会蔵
画像提供:和歌山県立紀伊風土記の丘


古墳時代の鳥形埴輪は数多くみつかっていますが、このように翼を広げてた鳥形埴輪は、全国的にみても珍しいものです。
頭とくちばしの形状から、この鳥をタカとする見方があります。
もしかしたら王(首長)が行う狩猟の際に、鷹匠の腕にとまらせたタカが飛び立った姿を表現したかったのかもしません。

続いては、重要文化財「胡籙(ころく)形埴輪」です。
 
(写真左)重要文化財 胡籙形埴輪 和歌山県教育委員会蔵 画像提供:和歌山県立紀伊風土記の丘
(写真右)参考画像:埴輪 靫 群馬県桐生市相生町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵 ※現在展示していません


胡籙とは弓を入れる道具のことで、5世紀に朝鮮半島から伝来しました。
同じ矢入れ道具である靫(ゆぎ)形埴輪は多く見つかっていますが、胡籙の埴輪の事例はほぼ皆無です。
矢羽根を5本表現しており、勾玉(まがたま)や直弧文(ちょっこもん)で飾っています。

最後にご紹介するのは、重要文化財「両面人物埴輪」です。


 
重要文化財 両面人物埴輪
和歌山県教育委員会蔵
画像提供:すべて和歌山県立紀伊風土記の丘


大日山35号墳でしか見つかっていない、2つの顔をもつ不思議な人物埴輪です。
顔には矢が刺さっており、痛そうです。しかも一方の顔は口が裂けています。首から下はみつかっておらず、どのような職掌の方なのかわかりません。『日本書記』には仁徳天皇の頃に、飛騨地方で1つの胴体に2つの顔をもつ人物(両面宿儺りょうめんすくな)がいたという伝承があり、その関連が注目されますが、まだまだ謎に包まれた埴輪です。

このほか力士や馬など様々な埴輪や、朝鮮半島で作られた陶質土器、鍛冶道具も展示していますので、ぜひ展示室にてお楽しみください。

なお、当館が所蔵する和歌山県の古墳時代出土品は、現在、和歌山県立紀伊風土記の丘資料館で展示中です。

ただいま和歌山に里帰り中です

特別陳列「紀伊の古墳―東京国立博物館所蔵品から―」と冬期企画展「うつわに隠された物語~装飾付須恵器の世界~」にてご覧いただけます(いずれも~3月4日[日])。
紀伊風土記の丘は、岩橋千塚古墳群の中にあります。
和歌山在住の方や、和歌山に足を運ぶ予定のある方はぜひご観覧ください。

※今後SNS(Twitter, Facebook, Instagram)で和歌山の考古作品を紹介していきます。#1089考古ファン で検索してみてください。

天平の秘仏、葛井寺の国宝「千手観音菩薩坐像」がついに公開!

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葛井寺は近鉄の藤井寺駅から徒歩で数分のところにあります。商店街に接していて、抜け道になっているようですが、足早に歩く人も本堂の前では立ち止まって合掌します。
本堂に置かれた大きな厨子は、毎月18日に扉が開かれ、多くの参拝者でにぎわいます。中には秘仏の千手観音菩薩坐像が安置されます。天平彫刻を代表する名品です。
特別展「仁和寺と御室派のみほとけ」には、その千手観音像が出品されます。関東にお出ましになるのは江戸時代初期に品川に出開帳して以来のことです。
等身よりも大きい体に、1041本の腕を持つ姿には迫力があります。千手観音であっても、実際に千本の腕を作った像はごく稀です。


国宝 千手観音菩薩坐像 奈良時代・8世紀 大阪・葛井寺蔵 (撮影:藤瀬雄輔)
均整の取れた美しい姿!


1041本の腕のうち40本は大きな手で、さまざまなものを持ちます。それらは後世につくり替えられたものですが、それぞれ意味があります。例えば髑髏は、あらゆる神々を使役できます。


大手で持った髑髏

さて、像は月に一度、拝することができますが、厨子に納められているので横や後ろ姿を拝することはできません。そこで今回の展覧会では360度ご覧いただけるようにしました。柔らかな背中や、頭上背面の大きく口を開けて笑う大笑面は、この機会を逃せば見ることはできないでしょう。


頭上背面、口を大きく開けて大きく笑う大笑面(撮影:藤瀬雄輔) 
ぜひ後ろからもじっくりご覧ください


展覧会に合わせて、CTの調査も実施しました。像内に小さな塔が納入されていることが知られていましたが、今回その姿を鮮明にとらえることができました。データの分析には時間がかかりますが、新たな発見があるはずです。


合掌する手のCT(撮影:荒木臣紀、宮田将寛) 
掌は木で、指は銅芯でつくって、その上に木屎漆で塑形


お像全体のCT(撮影:荒木臣紀、宮田将寛)
像内に小さな塔が見えます


天平彫刻の名品を360度からご覧いただける大変貴重な機会です。皆様どうぞお見逃しなく。

特集「江戸後期の京焼陶工―奥田頴川と門下生を中心に」

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こんにちは。研究員の横山です。
暦の上ではもう春のようですが、まだまだ寒い2月。新たな陶磁器の特集展示が本館で始まりました。

この特集「江戸後期の京焼陶工―奥田頴川と門下生を中心に」(本館特別2室、2018年4月22日(日)まで )では、江戸時代後期(18~19世紀)の京焼陶工をご紹介しています。

京焼とは、広く「京都で焼かれた陶磁器」を意味します。
その内容は、仁清・乾山に代表される華やかな色絵陶器、中国や朝鮮半島の陶磁器から影響を受けた写し、茶湯道具にまつわるものなど、実に多様です。
都という立地により、様々なものの行き来や文化交流が盛んであった京都。そこで作られる陶磁器もまた、そうした影響を大きく受けて発展してきました。

今回の展示では、京焼のなかでも奥田頴川(おくだえいせん、1753-1811)という、京都で初めて磁器を作ることに成功した陶工を出発点とし、彼の門下の陶工たち(青木木米<あおきもくべい>、欽古堂亀祐<きんこどうきすけ>、仁阿弥道八<にんなみどうはち>)に着目しました。
彼らは京都で活躍するだけでなく、当時各地方の藩で盛んに取り組まれていた陶磁器づくりに呼ばれ、藩主主導の御庭焼などの開窯や発展に貢献しています。

重要美術品 色絵飛鳳文隅切膳 奥田頴川作 江戸時代・18~19世紀 大河内正敏氏寄贈
重要美術品 色絵飛鳳文隅切膳 奥田頴川作 江戸時代・18~19世紀 大河内正敏氏寄贈
頴川の作品については昨年、建仁寺蔵の「三彩兕觥形香」が新たに重要文化財に指定され話題になりました。


京焼の特徴の一つとして、江戸時代前期の仁清、乾山の頃から見られる陶工(工房)の「名前」が明らかになってくることが挙げられます。
後期の京焼作品もまた、そうした「誰が」携わったかを知りつつ、各作品から個性が感じられるところが見どころの一つといえます。

煎茶具一式 青木木米他作 江戸時代・19世紀
煎茶具一式 青木木米他作 江戸時代・19世紀
自らを「識字陶工」とし、文人でもあった木米。この時代の煎茶の流行にも敏感であったことでしょう。
今回は久しぶりに一式を並べました。


こうした後期京焼陶工たちのかかわりのあった地方諸窯として、今回は三田(兵庫県)、瑞芝(和歌山県)、春日山(石川県)、偕楽園(和歌山県)、讃窯(香川県)を展示の後半でご紹介しています。
三田、瑞芝の青磁、春日山の赤絵、偕楽園の交趾など、代表的な特徴もありつつ、どの諸窯にもそれ以外の作風のものにも取り組んでいて、多種多様な作風を一言で表わすのはなかなか大変です。
この時代、いかに各藩が陶磁器づくりに力をいれていたかということがうかがえます。

讃窯の作品群
讃窯の作品群
讃窯の作品群。
開窯にかかわった仁阿弥道八の得意とする作風がよくあらわれています。


讃窯資料のうち、木印
讃窯資料のうち、木印
讃窯資料のうち、木印。
この大きな「讃窯」印(拡大写真)が捺された作品が、実はすぐ近くにあります。
簡単に見つかりますよ!


この時代に作られたものについては、「バラエティ豊か」という一方で「混沌」としたところもあり、陶工たちのかかわり方や各諸窯の詳細は、博物館館蔵の伝世品からだけではまだまだうかがい知れないことも多い、というのも事実です。
ともあれ、陶磁器の常設展ではなかなかお見せできない作品ばかりですので、ぜひこの機会にお楽しみいただき、何か新たな「発見」があれば幸いです。

特集 江戸後期の京焼陶工―奥田頴川と門下生を中心に
本館 特別2室 2018年2月6日(火)~ 2018年4月22日(日)

 

特別展「仁和寺と御室派のみほとけ」10万人達成!

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特別展「仁和寺と御室派のみほとけー天平と真言密教の名宝」(1月16日(火)~3月11日(日)、平成館)は、2月16日(金)、10万人目のお客様をお迎えしました。
ご来場いただいた皆様に、心より御礼申し上げます。

10万人目のお客様は、高崎市からお越しの佐藤明生さん。
本日は、奥さんの亜紀子さんと息子さんの徳くんと一緒に、ご来館されました。

明生さんには、当館館長 銭谷眞美より、記念品として特別展図録と展覧会グッズの「千手観音菩薩坐像 御尊影」を贈呈しました。
贈呈式には当館広報大使トーハクくんも登場!息子さんの徳くんも大喜びでした。


左から当館館長 銭谷眞美、亜紀子さん、息子さんの徳くん、佐藤明生さん、当館広報大使 トーハクくん 

明生さんによると、息子さんの徳くんは本展チラシの千手観音菩薩坐像(葛井寺蔵)を毎日のように見ていたとのこと。徳くんに本物を見せられることが楽しみ、とお話しくださいました。

特別展「仁和寺と御室派のみほとけ」も、残すところ3週間あまり、3月11日(日)までです。
後期(2月14日~)からは2体の秘仏も登場し、さらに充実した展示内容に。


国宝「薬師如来坐像」 円勢・長円作 平安時代・康和5年(1103) (京都・仁和寺蔵)
国宝のなかで最小の仏像。像高はわずか11.8センチ!目を凝らしてご覧ください。




国宝「千手観音菩薩坐像」 奈良時代・8世紀 (大阪・葛井寺蔵)
千本以上の手を備えた現存最古の千手観音像。天平彫刻の傑作をぜひ360度からご覧ください。



まだご覧になっていない方はもちろん、前期(~2月12日)にもう見たという方も、ぜひ会場へ足をお運びください!
 

東アジアの虎美術―韓国・日本・中国―

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日本、中国、韓国の国立博物館では、2006年の国立博物館長会議で決議された活動の一つとして、それぞれの国の文化財を持ち寄った展覧会を2年ごとの持ち回りで開催しています。
2014年の東京国立博物館「東アジアの華 陶磁名品展」、2016年の中国国家博物館「東方画芸15―19世紀中韓日絵画」に続く、第3回目の国際共同企画展が先月末から始まった韓国国立中央博物館開催の「東アジアの虎美術―韓国・日本・中国―」(~ 2018年3月18日<日>)です。


展覧会ポスター

この展覧会は、2018平昌冬季オリンピックを記念したホスト国の韓国が企画したもので、平昌冬季オリンピックのマスコット「スホラン」が白虎のキャラクターであることにちなんで、東アジアにおける虎美術の伝統と変容をテーマに企画されました。
日本からは岸駒の「虎に波図屏風」をはじめ30件が出陳され、3ヶ国あわせて105件の作品からなる大規模なものです。



東京国立博物館からはクーリエとして2人の研究員が現地入りをし、東京が記録的な大雪に見舞われた1月22日に、それを大きく下回る最低気温-19℃のソウルで展示作業を行いました。

平昌冬季オリンピックの期間とも重なる1月26日から3月18日まで国立中央博物館特別展示室で開催されている本展、韓国に行かれた際にはぜひご覧いただければと思います。

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